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イオン音波

 空気中の音波は、中性気体内部の分子どうしの衝突によって伝わっていく。 逆に言うと衝突がないと空気中に音波は発生しない。 しかし、プラズマの場合、衝突がなくても音波が発生する。 これはイオンが電荷を持っているためで、電場を介して音波を発生させることができるためである。 このプラズマ中のイオンによって生じる圧縮波(音波)のことをイオン音波と呼ぶ。 では、イオン音波を導出していこうと思う。
 イオンの運動方程式は \begin{eqnarray} Mn \left\{ \frac{\partial {\bf v}_i}{\partial t} + ({\bf v}_i \cdot \nabla){\bf v}_i \right\} = en{\bf E} - \nabla p \ \ \ \ \ \ \ \ \ (1) \end{eqnarray} ここで、状態方程式から、\( \nabla p = \gamma_i k_B T_i \nabla n \)であることと、\( {\bf E} = - \nabla \phi \)であることを使うと式(1)の運動方程式は以下のように書くことができる。 \begin{eqnarray} Mn \left\{ \frac{\partial {\bf v}_i}{\partial t} + ({\bf v}_i \cdot \nabla){\bf v}_i \right\} = -en\nabla \phi - \gamma_i k_B T_i \nabla n \ \ \ \ \ \ \ \ \ (2) \end{eqnarray} ここで、\( \gamma_i \)はイオンの比熱比、\( k_B \)はボルツマン定数である。 次に、線形化するために密度、速度、電位を\( n = n_0 + n_1 \)、\( {\bf v} = {\bf v}_0 + {\bf v}_1 \)、\( \phi = \phi_0 + \phi_1 \)のように添字0で表される背景成分と添字1で表される摂動成分で表すと以下のようになる。 \begin{eqnarray} Mn_0 \frac{\partial {\bf v}_{i1}}{\partial t} = -en_0 \nabla \phi_1 - \gamma_i k_B T_i \nabla n_1 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (3) \end{eqnarray} ここで、定常状態を仮定し、\( \partial n_0 / \partial t = 0\)、\( \nabla {\bf v}_0 = \nabla n_0 = 0\)とした。 また、摂動項どうしの掛け算は十分に小さいとして無視した。 摂動項は \begin{eqnarray} v_1 &=& v_1 \exp\left\{ i({\bf k}\cdot {\bf r} - \omega t) \right\} \\ n_1 &=& n_1 \exp\left\{ i({\bf k}\cdot {\bf r} - \omega t) \right\}\\ \phi_1 &=& \phi_1 \exp\left\{ i({\bf k}\cdot {\bf r} - \omega t) \right\} \end{eqnarray} と正弦的振動をすると仮定する。また、変動は\( x \)方向のみであるとすると、 \begin{eqnarray} \frac{\partial}{\partial t} = - i \omega \\ \frac{\partial}{\partial x} = ik \end{eqnarray} とすることができる。 これを式(3)に代入すると、 \begin{eqnarray} - i Mn_0 \omega v_{i1} = - i en_0 k \phi_1 - i \gamma_i k_B T_i k n_1 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (4) \end{eqnarray} を得るのである。 次に、磁力線に沿ったプラズマの流体ドリフトの議論から電子密度分布を得ることができる。 \begin{eqnarray} n_e = n = n_0 \exp \left( \frac{e \phi_1}{k_B T_e} \right) \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (5) \end{eqnarray} ここで、\( \phi \)はポテンシャル、\( k_B \)はボルツマン定数である。 式(5)の導出方法が不明な場合は磁場方向に平行なプラズマの流体ドリフトのページを参考にして欲しい。 式(5)を原点周りにテイラー展開すると、 \begin{eqnarray} n = n_0 \left( 1 + \frac{e\phi_1}{k_B T_e} + \cdots \right) \end{eqnarray} となる。よって、電子及びイオンの摂動は \begin{eqnarray} n_1 = n_0 \frac{e \phi_1}{k_B T_e} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (6) \end{eqnarray} となる。 ここまでで大分方程式が揃ったが、式(4)を解くためには式(6)の他に速度\( v_{i1} \)を含んだ方程式が必要である。 もう一つ必要な式は、イオンの連続の式から \begin{eqnarray} i \omega n_1 = n_0 ik v_{i1} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (7) \end{eqnarray} を得ることができるのである。 式(4), (6), (7)から \begin{eqnarray} i \omega M n_0 v_{i1} &=& \left( en_0 ik \frac{k_B T_e}{en_0} + \gamma_i k_B T_i i k \right) \frac{n_0 ik v_{i1}}{i \omega} \\ \omega^2 &=& k^2 \left( \frac{k_BT_e}{M} + \frac{\gamma_i k_B T_i}{M} \right) \\ \frac{\omega}{k} &=& v_s = \left(\frac{k_B T_e + \gamma_i k_B T_i}{M} \right)^{1/2} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (8) \end{eqnarray} を得る。 これがイオン音波の分散関係である。 つまり、式(8)はプラズマ中の音速を表すのである。
 この式を眺めてみると不思議なことに気づく。 実はイオンの温度が0度、つまり\( T_i = 0\)であってもイオン音波が存在することになる。 これは空気中では起こらずプラズマ中のみに見られる特異な現象である。

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