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電子の二重性

カテゴリー:電磁気学


トムソンは1897年に電子の存在を発見し、その電荷と質量の比である比電荷を明らかにした。 その後の1909年にミリカンによって電気素量が明らかにされた。 この2つの偉大な研究により、電子の電荷\( e \)と質量\( m_e \)が \begin{eqnarray} e &=& 1.60217662 \times 10^{-19}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \mathrm{C}\\ m_e &=& 9.10938356 \times 10^{-31} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \mathrm{kg} \end{eqnarray} であることが明らかになり、電子の基本的な特徴が1900年代前半に人類に知られることになったのである。

 

しかし、この時代の物理学では平行して大きな発見がなされている。 それはアインシュタインによる光電効果の発表である。 光電効果は、物質表面に光をあてることでその物質から電子が放出される現象である。これは光が粒子(フォトン)でできており、その粒子によって物質表面の電子が叩き出されるものである。 しかし、光は古くから干渉実験により、波動としての性質を持つものとして知られており、この粒子としての振る舞いをどのように理解すれば良いのか研究者を悩ませたのである。 現代では、光は粒子性と波動性の両者の面を併せ持つ、二重性がある存在であることが広く知られている。

光の二重性が発見され、電子にも注目が集まるようになった。 そこで、科学者たちは以下のような実験をした。


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図1 二重スリットを通過する粒子と波。


図1のような二重スリットを用意し、そこに電子銃で電子を打ち電子をスクリーンに投影することにした。 もし、粒子であった場合、それぞれのスリットを通ったのち真っ直ぐスクリーンにぶつかるので、2つの跡ができる。 さらにこの跡は電子1つ1つ跡が着くはずである。

もし、波動であった場合はスクリーンに干渉縞ができるのである。 電子は陽子と中性子の周りを回る粒子として知られていたので、科学者たちは電子も粒子としての性質を持つだろうと予想した。 しかし、実際に実験をしてみると奇妙なことが起きた。


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図2 二重スリットを通ってスクリーンに跡をつける電子


スクリーンには電子の衝突した跡で作られた干渉縞ができたのである(図2)。 これは、二重スリットに向かった電子が波動のように相互作用をし、粒子としてスクリーンに衝突したことを意味している。 この時、科学者らは電子ビームから発せられるたくさんの電子が互いに衝突をしてこのような結果を作り出したのではないかと考えた。 光の場合とは異なり、電子は一個づつ放出できる電子銃がある。そこで、この電子銃により同じ実験を行ったが、なんと結果は同じになったのである。 つまり、電子も光と同じように粒子性と波動性の2つの性質を合わせ持つ、二重性を有していたのである。

 

これは一体どう言うことだろうか?電子一つでは波動のように干渉を起こすことができない。 二重スリットに入る前に分裂でもして、違いに波動の影響を及ぼしながら二重スリットを通過し、その後結合したのだろうか? 物理学者達はこの謎をどうしても解き明かしたく、二重スリットに入る前の電子を観察することにした。


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図3 二重スリットに侵入する直前の電子を観測する観測者


電子は2つに分裂しているのでだろうか?1個の電子でどのように干渉しているのだろうか? 実験を開始するとさらに奇妙なことが起きる。 なんと、二重スリットに入る前を観測すると、スクリーンには2本の電子の衝突跡で縞が作られたのである(図3)。 これは電子が粒子としての性質しか持たなくなっていることを意味する。

どうしてであろうか?「観測」という行為を含めただけで、電子は波動の性質を失ってしまったのである。 まるで電子自身は自分が見られているのを分かっているかのようにその性質を変えてしまったのである。 この問題は人類を量子力学の世界へと招待することになる。 これらの問題は量子力学の分野で存在確率を示す波動関数で記述される。 ここではこのような波動性と粒子性を併せ持った電子の二重性の簡単な説明に留めるが、興味のある人はぜひ量子力学を学んで欲しい。


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