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磁気ミラー

カテゴリー:プラズマ物理学


図1のように\(z \)方向に向かうと磁場の強さが変化する場合を考える。 磁場は\(z\)軸に対して対称であるとする。

座標系は円柱座標系で、\( \theta \)を図1のように取り、\( z \)軸に垂直な半径方向を\( r \)方向とする。 この時の粒子の運動をまずは見ていこうと思う。


fig2-7-1.png

図1. 磁場が曲率を持つ場合のプラズマの運動(正電荷の場合)


図1の黒丸で示したようにプラズマ粒子を置く。 すると青の実線で示したように回転運動を始める。

実はこのz軸方向にすぼんで行くような磁場の場合、\( z \)軸から離れていけば行くほど磁場は弱まる。 つまり、図1の左側に記載したように、\( z \)軸に向かう方向に磁場勾配\( \nabla B \)ができる。

この\( \nabla B \)とz方向の磁場とで磁場勾配ドリフトが起こる。 その方向は\( z \)軸の上側で、正の電荷を持った粒子は紙面奥側にドリフトし、下側では紙面手前側にドリフトする。 つまり、赤の点線で示したように\( z \)軸に巻きつくようなドリフトをするのである。(電子は逆向き)

一方で、磁場は\( z \)軸対称であるので、\( \partial B / \partial \theta = 0\)であるため、 \( z \)軸から離れていく\( r \)方向の磁場勾配ドリフトは起こさない。


図1のような磁場中のプラズマの基本的な簡単な運動がわかったところで、\( z \)軸方向の運動について考えて行こうと思う。 まずは、磁場の各方向の強さについて考えて行く。 磁場は\( z \)軸に対して対称であるので、\( B_{\theta} = 0 \)である。 つまり、磁場は\( r \)と\( z \)の成分しか持たないのである。

\( r \)成分\( B_r\)は、磁場の発散は0であることを示す、\( \nabla \cdot {\bf B} = 0 \)から求めることができる。 (これは磁力線が途中で途切れないことを意味している磁場の基本的な性質である。) このことから、


\begin{align} \frac{1}{r} \frac{\partial}{\partial r} (rB_r) + \frac{\partial B_z}{\partial z} = 0\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (1) \end{align}

の関係が導ける(詳しい導出方法は、円柱座標でのベクトル演算子のページで)。 第2項を右辺へ移項し、両辺を積分することで以下の関係式を導くことができる。


\begin{align} rB_r = - \int_0^r r \frac{\partial B_z}{\partial z}\ \mathrm{d}r \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (2) \end{align}

この時、\( z \)方向の磁場の\( z \)軸方向の勾配\( \partial B_z / \partial z \)は、\( z \)軸からの距離つまり、\( r \)に依存するが、 その変化量は非常に小さい。よって、\( \partial B_z / \partial z \)はほぼどの位置においても、 \( z \)軸上(\( r=0 \))での値である\( [\partial B_z / \partial z]_{r=0} \)であると近似できる。よって、式(2)の積分を実行することができて


\begin{align} rB_r &= - \int_0^r r \frac{\partial B_z}{\partial z}\ \mathrm{d}r \\ &= - \frac{1}{2}r^2 \left[ \frac{\partial B_z}{\partial z} \right]_{r=0} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (3) \end{align}

である。式(3)から\( B_r \)は、


\begin{align} B_r = - \frac{1}{2} r \left[ \frac{\partial B_z}{\partial z} \right]_{r=0} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (4) \end{align}

となる。このことから、\( z \)方向に磁場勾配があり、それに垂直な\( r \)方向に磁場成分を持つことがわかる。


この系でのプラズマの基本的な運動を抑えたところで、運動方程式から実際にプラズマの運動の時間変化を見ていくことにする。 運動方程式は


\begin{align} F = q {\bf v} \times {\bf B}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (5) \end{align}

と簡単に導くことができる。\( r,\ \theta,\ z\)方向に分解して表示すると


\begin{align} F_r &= q \left( v_{\theta} B_z - v_z B_{\theta} \right) &(6.1) \\ F_{\theta} &= q \left( v_zB_r - v_r B_z \right) &(7.1) \\ F_{z} &= q \left( v_rB_{\theta} - v_{\theta}B_r \right) &(8.1) \end{align}

となる。ここで、\( B_{\theta} =0 \)であるので、


\begin{align} F_r &= q v_{\theta} B_z &(6.2) \\ F_{\theta} &= q \left( v_zB_r - v_r B_z \right) &(7.2) \\ F_{z} &= -q v_{\theta}B_r &(8.2) \end{align}

となるのである。式(6.2)と式(7.2)の第2項は、一様磁場中のプラズマの運動で導出したラーモア運動(回転運動)を表している。 式(7.2)の第2項は、\( \theta \)方向の加速度で、通常は0となるが、これは旋回中心が\( z \)軸と一致する場合であって、 \( z \)軸から離れた位置における回転運動を記述する際には\( \theta \)方向の力が出てくるのである。

式(7.2)の第1項は、\( F_{\theta} \)による、\( r \)方向のドリフトが起こることを示している。 このドリフトは\( z \)軸上では0になる。このドリフトは\( z \)軸に対して、垂直な方向に起こる\( {\bf F} \times {\bf B} \)ドリフトなので、ここでは特に言及しない。 式(8.2)で表される、\( z \)方向の力は、磁場が変化する方向の力である。 では次にこの力によって、プラズマがどのような運動をするのか詳細に見ていこうと思う。


式(8.2)式と(4)式から\( F_z \)は以下のように表される。


\begin{eqnarray} F_z = \frac{1}{2}q v_{\theta} r \frac{\partial B}{\partial z}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (9) \end{eqnarray}

ここで、旋回中心が\( z \)軸上にある場合を考えている。 旋回中心が\( z \)軸上にある場合、プラズマは上で説明したような磁場勾配ドリフトを起こさないので、\( z \)軸上を円運動するだけである。 つまり、\( v_{\theta} \)は常に一定で、回転運動の半径\( r\)はラーモア半径\( r_L \)と等しくなる。

では、\( F_z \)をプラズマの円運動の1回転における平均を取る。 \( v_{\theta} \)は\( v_{\perp} \)で表され、その向きは、正の電荷の場合は\( \theta \)が負の方向、負の電荷の場合は\( \theta \)が正の方向である。 つまり、式(9)の回転1周期における平均\( \bar{F_z} \)は、


\begin{eqnarray} \bar{F_z} = \mp \frac{1}{2} q v_{\perp} r_{L}\frac{\partial B}{\partial z}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (10) \end{eqnarray}

となる。ラーモア半径


\begin{eqnarray} r_{L} = \frac{mv_{\perp}}{| q | B}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (11) \end{eqnarray}

を式(10)に代入すると


\begin{eqnarray} \bar{F_z} = - \frac{1}{2} \frac{m v_{\perp}^2}{B} \frac{\partial B}{\partial z}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (12) \end{eqnarray}

を得る。\(\bar{F_z}\)の\( \mp \)が消えるのは電荷\( q \)と\( |q| \)を割る時に、正電荷の場合は+が、負電荷の場合は-が残る為である。 ここで、磁気モーメントを


\begin{eqnarray} \mu = \frac{1}{2} \frac{ m v_{\perp}^2 }{ B }\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (13) \end{eqnarray}

と定義すると、式(12)は、


\begin{eqnarray} \bar{F_z} = - \mu \frac{\partial B}{\partial z}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (14) \end{eqnarray}

となるのである。 磁気モーメントは常に正なので、プラズマが磁場が強くなる方向である\(z\)方向に向かうと、その方向とは反対向きの力を受けるのである。 次に、この磁気モーメントは時間変化しないことを示して、フラズマが強磁場に向かうとやがて反射されてしまう磁気ミラー反射が起こることを示す。


では、\( z \)軸上でのプラズマにかかる力を導出できたので、もっと一般的な場合として、磁力線に沿った方向にかかる力を考える。 上でも記したが、プラズマは旋回運動をする他に、\( r \)方向に生じている磁場勾配によって、図1の赤線で示すような磁場勾配ドリフトをしている。 この磁場勾配ドリフトは磁場勾配と磁場の外積によって、ドリフトの方向が決まるので、その方向は磁場勾配と磁場と垂直な方向になる。 つまり、磁場勾配ドリフトは磁場勾配にかかる力によって円運動をしており、磁力線に沿った方向には力を加えないのである。 よって、磁場に沿った方向(磁力線に水平な方向)にかかる力は式(14)で表されるような力になるのである。 今、式(14)は\( z \)方向に加えられる力になっているので、磁力線方向の力になるように書き換える。


\begin{eqnarray} \bar{F_{//}} = - \mu \frac{\partial B}{\partial s}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (15) \end{eqnarray}

ここで、\( s \)は磁力線方向の線素(磁力線方向の微小距離)である。 式(15)の\( \bar{F_{//}} \)を\( m dv_{//} / ds \)と書き直し、式(15)の両辺に\( ds/dt \)をかけると


\begin{eqnarray} m \frac{ds}{dt} \frac{dv_{//}}{ds} = - \mu \frac{\partial B}{\partial s} \frac{ds}{dt} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (16) \end{eqnarray}

となる。さらに


\begin{align} \frac{ds}{dt} &= v_{//} &(17) \\ \frac{\partial}{\partial s} \frac{ds}{dt} &= \frac{d}{dt} &(18) \end{align}

であることを使って


\begin{eqnarray} m \frac{ds}{dt} \frac{dv_{//}}{ds} = \frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2} mv^2_{//} \right) = - \mu \frac{dB}{dt} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (19) \end{eqnarray}

を得るのである。この時注意したいのは右辺の\( dB/dt \)は磁場の時間変化であるが、磁場が時間変化するのではなく、 プラズマ自身が運動することで変化する磁場のことを示しているのである。


次に、運動エネルギー保存の式


\begin{eqnarray} \frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2} m v_{\perp}^2 + \frac{1}{2} m v_{//}^2 \right) = 0 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (20) \end{eqnarray}

に式(13)を代入して


\begin{eqnarray} \frac{d}{dt} \left( \mu B + \frac{1}{2} m v_{//}^2 \right) = 0 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (21) \end{eqnarray}

の関係式を得る。この式(21)に式(19)を代入することで


\begin{eqnarray} \frac{d}{dt}\left( \mu B \right) - \mu \frac{dB}{dt} = 0 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (22) \end{eqnarray}

を得る。よって、式(22)から


\begin{eqnarray} \frac{d\mu}{dt} = 0 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (23) \end{eqnarray}

を得るのである。


fig2-7-2.png

図2. 磁場が曲率を持つ場合のプラズマの運動


 

では、式(23)で示される磁気モーメントの保存則は何が言えるのだろうか? もう一度、磁気モーメントの式を持ってくる。


\begin{eqnarray} \mu = \frac{1}{2} \frac{ m v_{\perp}^2 }{ B }\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (13) \end{eqnarray}

この式は時間が変化しても一定でなくてはならない。 つまり、磁場が強い領域に行くと、式(13)は小さくなってしまう。 それを補うために、磁場に対して垂直な速度成分\( v_{\perp} \)が大きくなるのである。 一方で運動エネルギーは保存しなければならないので、それに伴って\( v_{//} \)は小さくなるのである。 つまり、磁場の強い領域にプラズマが侵入すると\( v_{//} \)はどんどん小さくなってしまい、やがて静止したのちに、反対方向へ反射される。 反対側へ反射させる力は式(15)で表した力である。 このようにして、弱い磁場領域から強い磁場領域へ進んだ時に、プラズマが反射されること磁気ミラーと呼ぶ。

磁気ミラーはイオンと電子両方共に働く。 磁気ミラーを利用してプラズマを閉じ込めることに挑戦した実験があり、その簡単な様子を図2に示す。 両端に強磁場の領域を作って、プラズマを弱磁場領域に閉じ込めようとしたのである。 しかし、原理は簡単な磁気ミラーであるが、この閉じ込めは完全ではない。 これについては別のページのロスコーンのページで説明しようと思う。


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