トップ > 力学 > 調和振動子の力学的エネルギー:ばねにつながれた質点

 調和振動子の力学的エネルギー:ばねにつながれた質点


 図1のようにばねにつながれた質点が調和振動する場合の力学的エネルギーについて考える。 基本的なことではあるが、力学的エネルギー\( E\)は運動エネルギー\( T\)とポテンシャルエネルギー\( U \)の和で表される。 \begin{eqnarray} E = T + U \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (1) \end{eqnarray} 力学的エネルギーは力学的エネルギー保存の法則により、時間によらず常に一定である。

fig3-5-1.png

図1. ばねにつながれた質点

では、力学的エネルギーがばねにつながれた質点の場合にはどのような値をとるのか説明していく。 まず、ポテンシャルエネルギー\( U \)は質点にかかる力\( {\bf F} \)を使って、 \begin{eqnarray} U = - \int_0^x \ {\bf F}\ dx\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (2) \end{eqnarray} と表すことができる。なぜこう表すことができるのかは、上にリンクを貼った「力学的エネルギーの保存」のページで確認してもらいたい。 ばねにつながれた質点にかかる力は釣り合いの位置を\( x=0\)とすると、常に変位と反対向きにかかり、その大きさはばね定数\( k \)を使って、\( {\bf F} = - kx \)と表されるのである。 ここで、このばねはフックの法則に従うものとした。 では、この\( {\bf F} \)を式(2)に代入する。ここで、力は\( x\)方向にしかかからないことに注意する。 \begin{eqnarray} U &=& - \int_0^x (-kx)\ dx \\ &=& \frac{1}{2} k x^2 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (3) \end{eqnarray} となる。次に、運動エネルギー\( T \)は \begin{eqnarray} T = \frac{1}{2} m v^2 = \frac{1}{2} m \dot{x}^2\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (4) \end{eqnarray} である。つまり、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーが\( x\)の位置のよって変化するのである。 調和振動の場合、質点の変位\( x \)は \begin{eqnarray} x = A \cos (\omega_0 t + \alpha_0)\ \ \ \ \ \ \ \ \ (5) \end{eqnarray} と表すことができる。 \( A \)は振幅、\( \alpha_0 \)は初期位相、\( \omega_0 \)は角振動数で \begin{eqnarray} \omega_0 = \sqrt{ \frac{k}{m} } \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (6) \end{eqnarray} である。どうして変位をこのように表すことができるかは、「調和振動が持つ解」のページを参照して欲しい。 では、この変位\( x\)を式(3)、(4)に代入すると以下を得ることができる。 \begin{align} U &= \frac{1}{2} kx^2 \\ &= \frac{1}{2} k A^2 \cos^2 (\omega_0 t + \alpha_0) &(7) \\ T &= \frac{1}{2} m \dot{x}^2 \\ &= \frac{1}{2} m A^2 \omega_0^2 \sin^2 (\omega_0 t + \alpha_0) \\ &= \frac{1}{2} k A^2 \sin^2 (\omega_0 t + \alpha_0) \ \ \ \ \ \ \ \ &(8) \end{align} これにより、力学的エネルギーは \begin{eqnarray} E = T+U = \frac{1}{2} k A^2 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (9) \end{eqnarray} と求めることができる。 つまり、ばねにつながれた質点の力学的エネルギーは振幅の2乗とばね定数を掛け合わせたものの半分で表されることがわかるのである。ばね定数と振幅は時間変化しないことからも、力学的エネルギーが時間によらず一定であることがわかる。

平均のエネルギー
 式(7)と(8)でポテンシャルエネルギーと運動エネルギーの時間変化が分かった。 これらをよく見てみると、\( t=0 \)つまり、質点が最も釣り合いの位置から遠い場所にある時、\( U= \frac{1}{2} k A^2 \)、\( T=0\)となることがわかる。 (この時、\( \alpha_0 =0 \)とした。) また、\( t = \pi/2 \omega_0 \)の時、これはちょうど質点が\( x=0 \)の場所にいる時を示している。 この時は\( U=0 \)、\( T = \frac{1}{2} k A^2 \)となる。 このように、ポテンシャルエネルギーと運動エネルギーの和は常に一定ではあるが(力学的エネエルギー保存の法則)、一方のエネルギーが最大となる時、もう一方のエネルギーは0となるのである。 このように、ポテンシャルエネルギーと運動エネルギーは力学的エネルギーという決まった量を常に互いにキャッチボールのように受け渡しあっているのである。 では、このように時間変化するポテンシャルエネルギーと運動エネルギーではあるが、その平均を取るとどのようになるのであろうか? ここでは、それを見ていこうと思う。
 質点は周期的運動を行うので、平均のエネルギーを求めるには、1周期で獲得するエネルギーを1周期に要する時間で割ってやればいい。まずはポテンシャルエネルギーの時間平均\( \overline{U} \)について求めると、 \begin{align} \overline{U} &= \frac{1}{2\pi / \omega_0} \int_{0}^{2\pi/\omega_0} \frac{1}{2} k A^2 \cos^2 (\omega_0 t + \alpha_0)\ dt \\ &= \frac{kA^2 \omega_0}{4 \pi} \int_{0}^{2\pi/\omega_0} \frac{1}{2} \left\{ 1 + \cos\left( 2\omega_0t + 2\alpha_0 \right) \right\} dt \\ &= \frac{1}{4} k A^2 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (10) \end{align} となることがわかる。ここで、\( \cos^2\theta = \frac{1}{2}(1 + \cos2\theta)\)の公式を使った。 また、\( \cos\left( 2\omega_0t + 2\alpha_0 \right) \)は周期関数であるので、1周期にわたって積分すると0になるのである。つまり、ポテンシャルエネルギーの時間平均は力学的エネルギーのちょうど半分となることがわかる。 同様の計算を運動エネルギーについても行うと、 \begin{eqnarray} \overline{T} = \frac{1}{4} kA^2\ \ \ \ \ \ \ \ \ (11) \end{eqnarray} となることがわかる。(ポテンシャルエネルギーの場合とほとんど同じ計算なので、詳しい計算は省く。) このように、運動エネルギーの時間平均も力学的エネルギーの半分で表されるのである。
 以上から、ポテンシャルエネルギーと運動エネルギーは、その最大値は力学的エネルギーと等しくなり、 最小値は0となる。さらに、平均値は力学的エネルギーの半分で表されるのである。

広告