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一次マルコフ過程

 ランダム雑音の多くは、白色雑音(ホワイトノイズ)のように完全にランダムな値を取るわけではない。 実は時間\( t_1 \)に観測されたノイズは\( t_2 \)に観測されるノイズに影響を及ぼすのである。 もう少し詳しく言うと、微小時間\( \Delta t \)秒後のノイズの値は、前の性質をある割合\( \rho\ (\rho < 0) \)で引き継ぐのである。 このようなランダム過程を一次のマルコフ過程また、自己回帰過程と呼ぶ。 この名前はロシア人数学者のアンドレイ・マルコフにちなんいる。
 一次のマルコフ過程は \begin{eqnarray} r (t + \Delta t) = \rho r(t) + n(t)\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (1) \end{eqnarray} で表される。ここで、\( n(t) \)は白色雑音(ホワイトノイズ)である。 このように、\( \Delta t \)後のノイズ\( r(t+\Delta t)\)は、\( r(t) \)を割合\( \rho \)で引きずるのである。 このとき、\( r(t + m \Delta t) \)は \begin{eqnarray} r(t+2\Delta t) &=& \rho^2 r(t) + \rho n(t) + n (t + \Delta t) \\ r(t+3\Delta t) &=& \rho^3 r(t) + \rho^2 n(t) + \rho n(t + \Delta t) + n(t + 2\Delta t) \end{eqnarray} であることから以下のように表される。 \begin{eqnarray} r(t + m\Delta t) = \rho^m r(t) + \rho^{m-1} n(t) + \rho^{m-2} n(t+\Delta t) + \cdots + n(t+(m-1)\Delta t)\ \ \ \ \ \ \ \ (2) \end{eqnarray} ここから、一次のマルコフ過程の自己相関関数を求める。 自己相関関数を求めるためには、 \begin{eqnarray} C(m\Delta t) = E [r(t+m\Delta t)r(t)] \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (3) \end{eqnarray} を求めなくてはならない。ここで、\( E \)はアンサンブル平均である。\( n(t) \)を理想的な白色雑音であるとすると、 \begin{eqnarray} E[r(t)n(t + \Delta t)] = 0 \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (4) \end{eqnarray} である。すると、式(3)は、 \begin{eqnarray} C(m\Delta t) = \rho^m E [r^2(t)] \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (5) \end{eqnarray} となる。このとき、\( E[r^2(t)] \)は\( r(t) \)のラグが0における自己相関関数\( C(0) \)であるので、 \begin{eqnarray} C(m\Delta t) = \rho^m C(0) \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (6) \end{eqnarray} と書き換えることができる。
 まずは、\( C(0) \)について読み解いてみる。 \( C(0) = E[r^2(t)] \)であるので、式(1)の二乗のアンサブル平均を取る。 \begin{eqnarray} E[r^2 (t + \Delta t)] = \rho^2 E[r^2 (t)] + E[n^2(t)]\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (7) \end{eqnarray} このとき、\( E[r^2 (t + \Delta t)] =E[r^2 (t)] \)である関係を使って、 \begin{eqnarray} E[r^2(t)] = C(0) = \frac{E[n^2(t)] }{1 - \rho^2} \ \ \ \ \ \ \ \ \ (8) \end{eqnarray} を得る。
 次に、\( r(t) \)の時間\( \Delta \)における変化率\( \alpha \)を以下のように定義する。 \begin{eqnarray} \alpha = \frac{1-\rho}{\Delta t}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (9) \end{eqnarray} すると、\( \rho^m \)は、 \begin{eqnarray} \rho^m &=& (1 - \alpha \Delta t)^m \\ &=& \left[ (1 + \epsilon)^{1/\epsilon} \right]^{- \alpha\tau}\ \ \ \ \ \ \ \ \ (10) \end{eqnarray} と表される。ここで、\( \epsilon = - \alpha \Delta t \)、\( \tau = m \Delta t \)とした。 この式(10)を式(6)に代入することで、 \begin{eqnarray} C(\tau) = C(0) \left[ (1 + \epsilon)^{1/\epsilon} \right]^{- \alpha\tau}\ \ \ \ \ \ \ \ \ (11) \end{eqnarray} となる。ここで、\( \Delta t \)の影響を消すために、\( \Delta t \rightarrow 0 \)の極限を取る。 すると、\( \epsilon \rightarrow 0 \)となり、 \begin{eqnarray} \lim_{\epsilon \rightarrow 0} (1 + \epsilon)^{1/\epsilon} = e \end{eqnarray} を使うことで、一次のマルコフ過程の自己相関関数 \begin{eqnarray} C(\tau) = C(0) e^{-\alpha |\tau|}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (12) \end{eqnarray} を得るのである。このことから、マルコフ過程のように\( \Delta t\)の時に\( t \)の状況を引きずる割合が小さければ小さいほど、つまり変化率\( \alpha \)が大きければ大きいほど、自己相関関数はラグ\( \tau \)が大きくなるに従って急激に小さくなり、白色雑音に近づく。 これは式(1)からも想像しやすいことであろう。

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